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🍛三皿目:ネパールにも広めたい、桃谷のカツカレーの味「Solti Momo、グルング・テズ・プラカス」

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「なじむ」をテーマに「生野のリアルな暮らし」に迫るインタビュー企画。第一弾は人生が浮かぶ時も、沈んだ時も、日々変わらず私たちの胃袋を満たしてくれる「飲食業を営む方々」に話を聞いていきます。舌の肥えた彼らは、どんな味に出会ったとき「このまちになじんだ」と感じたのでしょうか?三皿目は、生野のネパリに慕われるネパール食材&食堂店主のあの味です。

桃谷のリトル・ネパール

生野区には現在も計25もの商店街が残る

  

桃谷は商店街のまちだ。JR桃谷駅の南口ガード下は、南側にある桃谷駅前商店街に直結している。地元で愛されるパン屋、古い喫茶店、スポーツ用品店などが並び、昭和の匂いにほっこりする。猫間川筋を越えると〈桃谷本通商店街〉だ。お寿司屋さん、本屋さん、たこ焼き屋さん、洋服屋さん……、歩いていると昔ながらの商店街の風景にネパールのお店がひょっこり2軒現れた。そのうちの一軒が、グルング・テズ・プラカスさんのお店「Solti Mart Osaka(以下、Solti Mart)」だ。

一階は、ネパール食材を扱う「Solti Mart」、二階は食堂「Solti Momo」。入り口から、数人のネパリが買い物する姿が見えた。我々に気づいたグルングさんが顔を出して「どうも、こんにちは」と招いてくれた。このお店は、生野区で暮らすネパールの人たちが集まる、ちょっとしたコミュニティにもなっていると聞く。

「何か困ったことがあったとき、たとえば通訳や翻訳が必要なとき、家に日本語で書いている手紙が届いたとき、みんなすぐここに聞きに来るからね。銀行の口座をつくるとか、自転車を盗まれて警察に行くとかね、いろいろあるじゃないですか。そういうとき、通訳として行っていますので、みんなが『お兄さん、ちょっと手伝ってください』と言いにくる」

グルングさんは、ネパールの中部にある都市・ポカラ出身。首都カトマンズに次ぐ第二の都市であり、またヒマラヤの山々を見渡せる美しい湖畔のあるリゾート地でもある。来日したのは21歳の時。日本の技術を学ぶため、広島で2年間日本語学校に通ったのち、2015年に大阪産業大学の電子情報通信工学科で学んだ。

  

流暢な関西弁で取材に応えてくれたグルングさん

  

「最初は留学生として来ていましたので、いろんな人に手伝ってもらいました。お店は営業する、販売するだけじゃなく、自分としても何か人のためになることをしないと続かないと思う。僕のお母さん、お父さんは『誰かが困っていたら絶対に手伝いなさい』と教えてくれましたので、困っている人をすぐに手伝います」

「なんでみなさんが店に来てるかは、お客さんに聞かないとわからない」とグルングさんは控えめに言う。きっと、日本の生活に慣れていない留学生にとって、頼りになる“お兄さん”のお店は心の支えにもなっているに違いない。しかも、この店に来れば懐かしい故郷の味にもありつけるのだ。

  

コロナ禍をきっかけにはじめた「solti」なお店

Solti Martには国内外のスパイスが多数集まる

  

グルングさんが、Solti Martを開いたのはコロナ禍がきっかけだった。

大学卒業後は、〈桃谷温泉通商店街〉近くの路地に二階建て長屋の一軒を借りて、主にソフトウェア開発を手がける「生き甲斐テクノロジー」を起業。当初は、学生時代から開発していたネパール人向けの日本語能力試験(JLPT)学習アプリなどが好調だったという。

ところが、2020年のコロナ禍で状況は一転した。入国制限により留学生が来日できなくなるとJLPT学習アプリの利用者は激減。翻訳・通訳や書類作成の仕事も入らなくなり、グルングさんは頭を抱えた。「稼ぐために何をすればいいのか」と考えた末、思いついたのがネパール食材の販売。グルングさんは、生き甲斐テクノロジーが入居する長屋の一階でSolti Martをオープンした。

「コロナ禍でも食事はみんなつくる。ご飯は絶対に食べないといけないんじゃないかなと思って、よく考えてすぐやりましたよ。ここらへん、ネパール人がけっこう多かったし、知り合いの人も多かったので。苦しかったけど、ITの仕事もしながらがんばりました。奥さんも手伝ってくれたし。大変だったけど復活しました」

「solti」は、ネパール語で「いとこ」を意味すると同時に、英語の「dude」のように親しみを込めて呼びかけるスラングでもある。初めて出会う人にも「solti、元気ですか?」言ったりするらしい。「知り合ったらみんな親戚やね」とグルングさん。そんな彼のお店には、今ではsoltiな人たちが数多く訪れる。2022年4月、入国制限の緩和とともに外国人留学生の入国が可能になると、Solti Martは一気に賑わいを増した。1日の来店者数は10倍以上の100人にのぼることもあったという。

「コロナの影響で2年間、来日できなかった留学生がみんないっぺんに来て。前の店は狭かったし、自転車を並べるとかいろいろ問題だったので場所を探しました。ここが見つかっていい場所かなと思ってね。広くなったね」

  

Solti Momoはいつ訪れても多くのネパリで賑わっている

  

2022年8月、Solti Martは〈桃谷本通商店街〉に移転。同年10月には、食堂・Solti Momoをオープンした。「お客さんの90%はネパール人、8%が日本人、あとはだいたいバングラデシュ人とかかな」。実際に食堂でご飯を食べていると、大阪にいながらネパールに迷い込んだような気分になる。

「僕が大阪に来た頃に比べると、ネパール人はめっちゃ増えたね。留学生も多いよ。前は大阪全体で100人くらいだったけど、今は桃谷だけでも500人くらい知り合いがいるね」

たしかに、表に出て商店街をぶらぶらしていると、ネパール人らしき外国人とすれ違う。ネパール人がたこ焼き片手に歩いていても不思議じゃない。その感覚がとてもおもしろい。

  

ネパール人なら誰でもモモを包める

看板商品のモモ

  

Solti Momoの看板メニューは、店名にもなっている「モモ」。小麦粉をこねて薄く伸ばした皮で具材を包み、加熱して食べる。日本人感覚で言えば、小さな肉まん型の水餃子というところだろうか。もとはチベット料理だが、ネパールでもよく食されるので、日本では「ネパール式の餃子」として知る人も多い。

モモはグルングさんの好物。「みんなに食べてほしい」と10個で500円とリーズナブルな価格で出している。メニューの「モモ」のページを開くと、モモのバリエーションの多さに驚いた。具材は、チキン、マトン、パニール(チーズ)など。それぞれに、「Steam(蒸し餃子風)」「Soup(水餃子風)」「Jhol(スープ餃子風)」「Crispy(揚げ餃子風)」「Chilli(チリソース)」などいろんな食べ方がある。グルングさんのおすすめはシンプルな「Steam」。「モモは、日本のうどんやラーメンみたいにどこにでもあるよ」と言われたが、たしかにうどんやラーメン感覚でつるっと食べられる。

「モモは、作る人によって作り方や味も違うんやね。家でつくるときは粉からつくった皮に、マサラを混ぜたお肉を包む。早い人は5秒で1個くらい包むよ。鶏肉、ヤギ肉、ベジのモモもある。家でつくる味とレストランの味は違うから、お店で出しているのはネパールのレストランの味やね」

  

こちらもモモと同じく人気の「タカリセット(¥900)」だ

  

マサラとは、クミン、コリアンダー、フェネグリーク、シナモンなどの香辛料をブレンドしたもの。家ごとに、また料理人ごとにオリジナルのマサラがつくられる(既製品もある)。Solti Martでは、輸入会社から仕入れるインド産香辛料を扱っているが、「ネパールのスパイスは味が違う」とグルングさんは言う。さすがスパイスを使いこなす文化に生まれ育った人。スパイスの味に対する感度が我々とは違って鋭いのだ。

「辛いとか甘いとかの違いじゃないね。日本の米も、高いお米と安いお米で味が違うじゃないですか。コーヒー豆も、原産国によって味が違う。それと同じで、ネパールの香辛料の味が確実にある。もちろん、(自分にとっては)ネパールの方がおいしいし、いつかはネパール産の香辛料を売れたらいいなとは思っているね」

  

日本のカレーは「めっちゃおいしいね!」

お店には多くのネパリが自転車で寄っていく

  

グルングさんは、日本で暮らしはじめてもう11年が過ぎた。最初の2年間は日本語学校で学んだ広島・福山、その後は大阪産業大学のある大阪・住道で4年間を過ごした。初めて大阪に来たとき、親切な大阪人に駅で助けてもらったことをグルングさんは今も忘れない。

「電車がわからなくて迷ってしまったんですけど、日本人が『あ、電車わからないんですか?』と手を持って電車まで連れて行ってくれたよ。これは一つの例で、他にもいろいろあるよ。大学の先生もやさしくて卒業して起業する時も助けてくれた。『何か困ってたら言うてな』と言ってくれる。これが一番いいと思う」

桃谷商店街界隈に暮らしはじめてから、今年で6年目を迎える。桃谷の住み心地はどうだろうか?

「若い時は賑やかなほうがいいと思っていたけど、住道みたいな静かなところもいいなと思うこともありますね。でも、ここらへんは知り合いも多いし、友だちも近くにいるので、どこかに行こうかなとは思っていないね。桃谷にいたら、外に出てもネパール人に会うし、どこにいてもネパール語で話せるし、わからないことがあったら助け合いにいけるし。いい感じです」

11年の日本生活を振り返って、日本で食べて一番おいしかったものはなんだったのだろう。グルングさんは、広島で日本語学校の先生たちと食事に出かけた時に食べた唐揚げ丼、そして学生時代に先輩に連れて行かれた店で食べたビビンバを挙げた。

「日本の料理なら、しゃぶしゃぶとかめっちゃおいしいよ!カツ丼もおいしいね。でも、最近気に入っているのは、桃谷駅前商店街の喫茶店『いぷせん』のカツカレー。めっちゃおいしいんやね。すぐに売り切れるよ。日本のカレーもめっちゃおいしいよ。将来、僕も日本のカレーのお店をやろうかなと思ってるから、いろんなお店で味見してるところやね」

  

グルングさん大好物の『いぷせん』のカツカレー(写真:渡部翼)

  

後日、ふたたび桃谷に足を運び「いぷせん」でカツカレーを食べてみた。いわゆる日本のカレーに肉厚な豚カツがどーんと贅沢に乗って800円。シンプルなカツカレーだが、豚カツのボリュームとあっさりした肉質のバランスがよく飽きがこない。グルングさんは、もしも将来ネパール に帰るとしても、このカツカレーは「また食べたい」と思うだろうと言う。そしていつか、ネパールで日本のカレーを出す店をやってもいいかもしれないと考えている。もともと、インドやネパールから伝わり広まった日本のカレーが、その源流へと還っていくかのようだ。

国境を越えて伝えられた味は、その国の食文化を豊かにする。今、私たちが桃谷のSolti Momoで、チベットからネパールを経由してやってきたモモに舌鼓を打つように、いつかグルングさんがポカラで日式カレー店を開き、ネパールの人たちが「大阪カレー」と名付けられたカツカレーを愛する日がくるのかもしれない。味を共有することは、人と人の心をつなぐ。モモを食べる私たちがネパリたちの「solti」であるように、カツカレーを食べるネパリたちは私たちの「solti」である。

  

  

★Solti Momo
住所:大阪府大阪市生野区生野区勝山北2丁目1−7
https://maps.app.goo.gl/nHRNFPW4nj5APih38

営業時間:
11:30-21:30
定休日:月曜日
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Writer

杉本 恭子
大阪出身、京都在住のフリーライター。同志社大学大学院文学研究科新聞学専攻修了。地域づくりをする人、研究者、経営者、宗教者などへのインタビュー記事多数。著書に「京大的文化事典 自由とカオスの生態系」(フィルムアート社)など。 https://writin-room.tumblr.com/

Photographer

吉田亮人
1980年宮崎県生まれ。京都市在住。国内外での展覧会開催、出版物を刊行している。写真集出版レーベル「Three Books」の共同代表。主な出版物に「Brick Yard」「Tannery」(以上、私家版)、「THE ABSENCE OF TWO」(青幻舎・Editions Xavier Barral)「しゃにむに写真家」(亜紀書房)「The Dialogue of Two」(私家版・第47回木村伊兵衛賞最終候補ノミネート)「The Screw」(Three Books)がある。日経ナショナルジオグラフィック写真賞2015・ピープル部門最優秀賞など受賞多数。 http://www.akihito-yoshida.com

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