日常に刺激的なスパイスを届ける人々のルーツを知る旅〜煮込み料理「煮込みほくほく」がまちに加えるスパイスとは?〜
生野区に住む60の国の人々。区内には、そんな多様性に富んだ人々が営むスパイスを活かした飲食店が多く点在する。
今回は、EXPOいくのヒートアッププロジェクトの参加者と飲食店を訪問し、この生野というまちの日常に刺激的なスパイスを届ける料理を食し、その国の知られざる文化に触れる。その中で、参加者が何を感じ、まちの見え方やまちの景色が変わっていく様子を記録する。1店舗目は桃谷温泉通商店街に店を構える煮込み料理「煮込みほくほく」を訪れた。
※参加者は、🍛五皿目:ルーツは韓国料理、修業はスペイン料理。たどり着いた“日常の味”とは?「煮込み ほくほく、高光健治」を読んだ上で訪問しています。
なぜスペイン料理の修行を経て、煮込み屋へ
多国籍カレー(スパイス)フェス1店舗目にお邪魔したのは桃谷温泉通商店街にある「煮込みほくほく」さん。そこは「桃谷温泉通」の名に相応しく、大きな銭湯の前には数件の居酒屋が立ち並んでいる。そこを数十メートル、歩くと「煮込みほくほく」と書かれた看板がひょっこりと姿をみせる。今回はその煮込みほくほくさんの暖簾をくぐり、その味を通して、高光さんのルーツに迫る。
お店に入ると、煮込みほくほくさんの店主である高光さんとその奥さん、そしてなんとも可愛い娘さんが手を振りながら出迎えてくれた。開口一番、「娘がこの店の会計をやってくれてるんです」と冗談ながらに高光さんは笑う。
はじめに、高光さんから自己紹介と「煮込みほくほく」について説明いただき、定番メニューの「すじ肉豆腐」を1皿目として提供いただいた。すじ肉豆腐を食べながら、高光さんの繁盛店だったスペイン料理屋での修行のお話がはじまり、箸とともに話がすすむ。
参加者B:
「めちゃくちゃ味が染みてますね。なんでこんなに染みてるんやろ。これだけの味を出せる腕あって、しかも前の店は繁盛店。そんな店をやめて居酒屋をやるってなった時ってまわりからの心配とか、大変だったことがあったんじゃないですか?」
高光さん:
「特に大きな障害はなかったかな。自分のお母さんとかもそっけない感じでしたし。あっ!スペイン料理のお店に来てくれていたお客さんがこっちにきてくれないことはありますね。想定はしていたんですが、ちょっと悲しいですね。」
参加者A:
「今のお店でもスペイン料理のエッセンスが詰まっているものとかってあるんですか?」
高光さん:
「あります!スペイン料理は果物を多く使うことが多いんです。例えば、生ハムみたいな塩味が強く効いているものにメロンを巻いて食べたりします。この店では、いちごと菜の花の白和とかイワシのマリネとかもあり、スペイン料理の要素が加わった料理を提供してます。」
参加者A:
「僕、ピザにハチミツをかけるとか、食べるまではめちゃくちゃバカにしてたんですけど、美味しいですよね。それとおんなじ感覚だ。」
これだけの煮込みの味を出せる腕前に加え、スペイン料理の修行もしている高光さんが出す次の料理が楽しみになった。
いつか追いつきたい母の背中
お店定番の「すじ肉豆腐」をさらりと食べ終え、次に「蛍烏賊と菜の花卵とじ」と「コブクロのたたき」をいただいた。ドロっとしたイメージのコブクロのたたきだが、イメージとは真逆のサラッとしたコブクロのたたきが提供され、参加者全員が驚いた。
高光さん:
「コブクロのたたきは、巽に昔あった『くしげん』という串焼き屋さんの大将に教えていただいたんですよ。」
参加者A:
「そういうのは普通に教えてもらえるものなんですね」
高光さん:
「スペイン料理の修行時代は、見て覚えろっていうスタイルでしたね。そこで、作っているところを自分で見て、メモをとって技を盗むみたいな感じですね」
昔ながらのスタイルではあるが、その方法が一番効率が良いのではと頭の片隅で思いながら話を聞いていると、高光さんの母親も飲食店を経営されているので何か学んだのではないかと気になり、質問を投げると,,,
高光さん:
「うちのオカンは、ほんまにパワフルなんですよ。」
参加者B:
「どうパワフルなんですか?」
高光さん:
「今でも休みを取らない人で、毎日お昼からお店をオープンさせて夜の11時くらいまでの12時間くらい働いてますね。自分が子どもの時は朝までお店をやってましたよ。だからこそ、自分自身がお店の店主という同じ立場になって考えるとホンマに尊敬しますね。」
子どもの時には理解できなかった親のすごさが大人になって理解できることは多々ある。
そんな高光さんのお話を聞く中で、娘さんがいちごを頬張りながらカウンター席に顔をひょっこり覗かせたのを見て、高光さんの幼少期の姿と重なった。
参加者A:
「ちなみに、娘さんが生まれた時のお店ってどうしてたんですか?」
高光さん:
「生まれた時から厨房にいますね。スペイン料理屋さんにお腹の中にいたんで生まれてすぐの頃から。」
その話を聞いて、一番はじめに私たちを迎え入れてくれた娘さんの愛想の良さに納得がいった。
「ほっこりする」瞬間をつくり、日常に入り込むという幸せ
高光さんがこれまでにスペイン料理で修行し、お母さんのパワフルさを受け継いでいるかただということがわかったが、そもそもなぜ生野の桃谷という土地でお店を開こうと思ったのか。
参加者C:
「ずっと生野でお店をやるって決めていたんですか?」
高光さん:
「自分の実家近くの玉造とか鶴橋とかを狙っていて探してたんですけど、あんまり物件がなかったんです。桃谷は今まで降り立ったこともなかったんですけど、あえて知らない場所で挑戦するもの面白いかなと。なんか雰囲気ある通りだし。わざわざお店に立ち寄ってもらいたいなと思ってこの場所に決めたんです。」
そんな決心で、煮込みほくほくを営業し始めて1年が経つそう。高光さんがお店を続けていく上で幸せな瞬間とは。
参加者A:
「お店やってて、1年経つじゃないですか。『わぁ〜幸せや!』って思う時はありますか?やっぱり多くの人で賑わっている時ですか。」
高光さん:
「お店が忙しい、忙しくない関係なく、『ほっこり』しているのを見てる時が一番幸せかなと思います。前のお店と大きく変わったのが、年齢層なんですよ。結構ご年配の夫婦に来ていただいた時に、『にぃちゃん頑張って〜』とか言われるとすごいほっこりしますね。」
すでにほっこりする場所になっている煮込みほくほくだが、それにはお店の作りにも仕掛けがあるそうで、
高光さん:
「元々お店をオープンする前から、ほっこりすることができる場所を作りたかったんです。だからこそ、内装の作りも全てのお客さんの顔が見えるL時の作りにしてるんです。」
参加者A:
「料理を提供して終わるのではなく、提供した後にお客さんの顔とかもよく見てらしてるんですね!」
高光さん:
「人の日常に入れるっているのはすごくありがたいことやと思ってます。寒い時にお店入ってきた人が煮込み料理を食べて顔がほっこりしているとかそういうリアクションを見れるのは幸せです。」
ほっこりという場所を提供している中で、今後はどういうことにチャレンジしていきたいのか尋ねた。
参加者B:
「お店を大きくしていくよりかは、こういうスタイルでこれからも続けていきたいんですか?」
高光さん:
「そうですね。こういうほっこりとした場所を感じられるスタイルは続けたいと思ってます。またスペイン料理もしたいと思っていて、五島列島とかの田舎でお店をオープンしたいんですよ。知り合いが五島列島初のキムチ屋をやっていて、近くの農家さんとかと知り合いながら新鮮なキムチを地産地消で作れて楽しいって言ってるんです。それを聞くとすごくやりたくなりますね。」
と、全員のほっこりとした顔を見渡しながら高光さんは語った。
銭湯帰りの人たちが今日も通う「毎日食べたくなる味」。そんな人柄の良い高光さんだからこそ彩ることができない日常のあり方を、一度体験してほしい。皆さんも一度、桃谷温泉通商店街に足を運んでみてはいかがだろうか。
★煮込み ほくほく 住所:大阪府大阪市生野区勝山北1丁目3−16 https://maps.app.goo.gl/BemeCuZ24FvxRShW9 営業時間: 火曜〜金曜:16:00-23:00 土曜、日曜:14:00-23:00 |